加賀編 「七世」

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加賀編 「七世」

 顔を隠したまま、好きですと告げた倉知の耳が赤い。俺は笑って立ち上がる。 「腹減っただろ。何食いたい?」  指の隙間からこっちを見る。しばらくして両手をどかした倉知は、視線を宙に逸らして、口を開いた。 「なんでも」 「っつーのはなしな」  すかさず言った。倉知は困った顔で鼻を掻くと、ベンチから腰を上げ、バッグを肩に担いだ。 「正直、胸がいっぱいで食欲ないんですけど」  ちら、と俺に目をくれて、またすぐ逸らす。 「ここの近くにお好み焼き屋あるんで、そこでいいですか?」 「いいね」  同意すると嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。先にたって歩く背中を見ながら、なるほどな、と思った。  こいつは俺が好きなのだ。  そりゃそうだ。他人の降りる駅を把握している人間が仮にいたとして、たまたま乗り過ごそうとしていることに、果たして気がつくのか。ずっと意識して見ていないと気づかない。  悪いことをした。俺が鈍感だったせいで悩ませてしまった。  あの日、やたら背の高い高校生に本を取り上げられ、降りる駅だと知らされた。
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