素振り

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ブンッ! ブンッ! 今日も風を切るような音が聞こえてきて俺は顔を上げた。 コンビニの前の広間に目を向けると、黒い人影が見える。 夜だからそれが男なのか女なのかよくわからないけれど、ゴルフの素振りをしているのがわかった。 「今日もか」 俺はそう呟いて、ゴミ箱の掃除を続けた。 3日前からこのコンビニの夜勤のバイトを始めたのだが、その日から毎日広間の人影を目にしていた。 なにもこんな夜中にゴルフの素振りなんてしなくていいのに。 そう思うが、きっとあの人にとってはそれが日常であり、日課になっているのだろう。 俺みたいに昼間眠って夜働く人間もいるように、夜しか時間がないのかもしれない。 「よいしょっと」 ゴミ袋を両手に抱えてゴミ捨て場へと向かう。 ブンッ!ブンッ! 「見るなよ」 途端に声をかけられて飛び上がりそうになりながら振り向くと、そこにはバイトの先輩が立っていた。 「驚かせないでくださいよ」 「お前、絶対に見るなよ」 「見るなってなにを……あ、まさかあの広間の?」 そう聞いた瞬間、先輩がサッと青ざめた。 「何も見ずに店内に戻るぞ」 そう言われると余計に気になって来る。 戻り際、俺はチラリと広場に視線を向けてしまった。 すると、さっきまで暗くて見えなかった光景が月明かりに照らし出され、ハッキリと見る事ができた。 ブンッ! ブンッ! ゴルフクラブを持っている男は無心にクラブを振り続けている。 クラブの下には血まみれの顔の女が倒れていた……。 先輩から聞いた話だと、以前あの広間には一軒家が建っていて夫婦が暮らしていたらしい。 しかし些細なことから夜中に喧嘩になり、夫がゴルフクラブで妻を撲殺し、その後夫も自殺したのだそうだ。 家が無くなった今もまだ、彼らはあそこにいるのだった。
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