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夜行列車
時計の針が夜半に近付くにつれて、駅の待合室から人の姿が消えていった。
到着列車を知らせる構内アナウンスはない。この時間帯には駅員も不在。
時間に正確な日本の鉄道とは違って、15分くらい遅れながら到着する列車に、乗客は自分の判断で粛々と乗り込んでいく。
僅かな照明に浮かぶ駅舎。
鈍色に伸びる鉄の轍(わだち)は儚げに、視野の少し先で荒野の闇に呆気なく呑まれ、溶けている。
乗り間違えない様に、少し早めにプラットフォームに立った。
オイルドジャケットのポケットから乗車券を取り出して、そこに印字された車両番号を確認する。
晩冬とはいえ気温は氷点を下回り、吹き抜ける乾風が肌に痛い。タートルネックのニットに首を埋めて、冷気を凌ぐ。
やがて、閑散としたプラットフォームの彼方に、夜行列車の灯りが滲み始めた。
ゆっくりと滑り込んでくる車体。
白地に赤いラインが二本引かれていて、搭乗扉の横には控えめな赤字のフォントで「renfe(スペイン国鉄)」の文字。
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