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彼女を怖がらせない様に個室の反対側へ腰を降ろしてから、折り畳みナイフを取り出した。
果実の上部に刃を当てて、等間隔に皮を削り取っていく。スルスルと紐状に延びていく、赤い林檎の皮。
彼女に視線を向けると、物珍しそうにじっとオレの手許を窺っている。
少し萎びた果実をくし形に切って差し出すと、嬉しそうに頬張った。余程、腹が減っていたのだろう。
興が乗ってきたので、二つ目の林檎は皮を剥く前にくし型に切って、子供の弁当に入っているみたいなウサギの形に仕上げた。
彼女は口を真ん丸に開いたまま、いまにも吹き出しそうな表情。
掌に一つ、そっと乗せてあげる。
「こんなに可愛いと、食べられないわ」
「ただの林檎だよ」
「いえ、無理よ。でも、食べたいの」
「ウサギが好きなの?」
「そう。あんなに愛らしい生き物って、他にないと思わない? なのに、私の家族は……」
視線で続きを促すが、彼女は黙り込んでしまった。
イギリスの上層階級には狩りを嗜む長い歴史があって、クマ、シカ、オオカミ、キツネの他にウサギも狩猟の対象とされてきたと聞いた記憶がある。
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