夜行列車

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 指定された車両に乗り込むと、長い廊下に沿って扉付き個室が五つ並んでいるのが見えた。  それぞれの室内には、一般車両と同じ横長の座席が向かい合って並んでいる。  リクライニングはおろか、座席の間を区切ってくれる肘掛けもない。座席指定もないので、乗客は空いてる座席を自分で見つけて、固い座面に身を捩りながら夜明けを待つことになる。  既に日付が変わっていたこともあって全ての個室が消灯されていたが、その夜のオレはついていた。  二つめの個室を覗き込んだ時に、孫を連れて旅行中と思しき老夫婦が招き入れてくれたのだ。  二言三言、形だけの自己紹介めいたことを口にしてから、バックパックを降ろして席に着く。  小学生くらいの男子が、祖父の膝の上に身体を横たえて寝息を立てていた。  車窓にはカーテンが引かれているが、都市部を離れて荒野を横断する列車の窓はどうせ暗闇しか映さない。  彼らの穏やかな寝息に緊張が緩んだのか、線路の継ぎ目を車輪が越える単調なリズムにオレの意識もやがて曖昧になっていった。
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