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アブエリータ
ローマ時代の残滓漂う旧市街の片隅、赤茶けた煉瓦作りのありふれた住宅マンション。
そのワンフロアを占有する家族経営の安宿に逗留して、数週間が過ぎた。
素泊まりは日本円に換算して千円強。欧州圏内では物価が比較的安いこの国においても、最安値に近い。
宿の利用者の多くは、大きなバックパックを背負った若い旅行者。数日間滞在したかと思うと、渡り鳥の様に次の街へと旅立っていく。
そんな彼らから「アブエリータ(おばあちゃん)」と親しまれる女性がいた。
女系家族のイメージが強いラテン民族の例に漏れず、一家の中心としてこの宿を切り盛りしているのも彼女だった。
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