1015人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
はあっ。
彼は盛大にため息を吐いてから、面倒臭そうに話し出した。
「前にも一度話しはしたはずだが」
前置きの後、
「今回はな、旅程が随分と長いんだ。ざっと見て10日余り」
「はあ…」
それは確かに聞いている。
直接的にではないにしろ、出掛ける数日前になると、言葉や態度の端々で散々不満を漏らしていたから。
この人には、ちょっと駄々っ子みたいなところがある。
クスッと思い出し笑いをしていると、至極真面目くさった顔をしていた彼が、急にプイッと顔を背けた。
「……だからだ」
「エエエエッ!そ、それだけ?」
コクンと頷く。
「ちょっと待って下さいよ、それじゃあ全然繋がらない…」
「…………」
彼はぎゅっと口を引き結び、ムッスリと口をつぐんでいる。
「あ の ね え!」
思わず立ち上がった私は、机にたんっと両手をついて、彼に詰め寄った。
間近に顔を覗きこむも、彼は横を向いたまま、頑なに瞳を閉じている。
膠着状態が続いていた時、
「コホン」
横から、少しわざとらしい咳払いが聞こえた。
「貴彪様、
奥様はお困りのご様子です。私の方から、少し補足説明をさせて頂いてもよろしいですか?」
最初のコメントを投稿しよう!