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かつては先代総帥の右腕、今は彼の頭脳(ブレイン)、やり手秘書の後藤田さんだ。
犬も食わないやり取りの中、顔色ひとつ変えずに彼控えていたその人は、主(あるじ)が “うん” と頷くのを確認してからクルリと私の方を向いた。
「奥様、心してお聞きください」
「は、はいっ」
静かながらも、その年を重ねた威圧感に思わずピシッ背筋を伸ばすと、彼は流暢かつ丁寧に説明し始めた。
「貴彪様はここのところ、ずっと気に病んでおられました。
他でもない、奥様のことをでございます。
新婚ながら、大きな邸宅の管理や、たくさんの家族の世話をさせてばかりで、ろくに構ってやれないと」
「え」
思わずポッと頬を染めると、
「ふ、フンッ」
彼は首を可動域ギリギリまで後ろに回して顔を隠した。
後藤田さんの語り口調は、だんだんと熱を帯びてくる。
「新婚旅行はおろか、妻の誕生日さえも共に祝ったことがない」
そうだ、私の誕生日。
確かにその日もタカトラさんは、ドバイに向かって飛んでいたっけ。
「ああ、こんなことが続いたならば、いかに自分とて奥様に愛想を尽かされるかも知れない」
タカトラさん…
「そんなっ、まさか私が…」
アナタを嫌いになるなんて、あるわけがないです!
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