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演劇風の語り口につい乗せられ、ウルウルと瞳を潤ませて、彼に訴えかけようとすると、
「さ ら に は」
後藤田さんは語気を強め、主導権を奪っていった。さらにたっぷり情感を込め、悲しげな表情(かお)を造りこむ。
「真新しい自宅のベッドで共に過ごした夜も、まだ両の指にも満たない」
「おい、後藤田」
彼が少し声を荒げたが、後藤田さんは構わず続ける。
「そのうえ今回は、こんなにも長く離れ離れになってしまった。
お前達に、こんなに仕事ばかりさせられて。
このままでは俺は、弟に美咲…いや失礼。奥方を横取りされる。ああ、心配で堪らない」
「後藤田ぁっ!」
真っ赤になって立ち上がる彼。
凄まじい怒号を、後藤田さんはしれっと受け流した。
「と、
癇癪を起こされまして。
そこで僭越ながら、私の方からご提案差し上げたのでございます」
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