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そして週末。
クリスマスイブ。
仕事を早々に終わらせて、
彼女と一緒に過ごす人。
家に帰って夜にはサンタクロースになる人。
さまざまだった。
そして俺は・・・
「かんぱーい!」
なぜか、和田さんと居酒屋にいた。
「はい、乾杯です」
「なんだよヒロ、その態度」
「いえ別に。ただイブに過ごすのが和田さんっていうのが・・・」
「うるせーな。嘆くくらいなら彼女作れ、彼女」
「和田さんこそ」
俺と和田さんは目の前にあるビールを一気に飲み干す。
・・・お互いに彼女ができないから、ここでこうしているのに。
「それともお前、あいつが忘れられないとか?」
「あいつ?」
「教育実習生クンだよ、ほら、夏前にお前の家に居候してた」
「・・・ああ」
そういえば、奏と和田さんは会ったことがあるんだった。
俺の家で。
和田さんの姿を見て出て行った奏を追いかけて、
手を離してほしけりゃちゅーしろ、なんて脅して。
あのことがあって、俺たちの距離は少しだけ縮まった。
懐かしい思い出だ。
「和田さんこそ、女性に興味ないんですか?」
「ない」
即答され、呆気に取られる。
まさか和田さん、女性より男性の方が・・・?
「勘違いすんなって。お前じゃねーんだし」
「俺も違いますって」
「・・・・・・なあ、ヒロ」
「はい?」
和田さんのもともと低い声が、さらに低くなる。
「俺の、片腕になってくれねぇか?」
「・・・え?」
「俺は女には興味がない。もちろん男にもだ。
俺が今興味があるのは・・・夢と金だけだ」
夢と・・・金?
「俺、自分の店を持ちたい。その資金を稼ぐために今の会社で働いている」
「・・・そうだったんですか」
長年一緒にいるけど、初めて聞く。
和田さんの、こんな真面目な話を。
「5年間俺が育てた甲斐があって、お前の営業力は他のヤツより優れている。
だから・・・俺の店で、俺の片腕として働いてくれないか」
あ・・・
そこでようやく、俺は気がついた。
和田さんにスカウトされていることに。
「まあ職場のこともあるし、今すぐにってわけじゃない」
「は、はぁ・・・」
「ヒロ、考えておいてくれ」
和田さんは2杯目のビールを一気に飲み干す。
それからずっと、
お互いにただ酒を飲み続けた。
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