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「おまたせ、美里。長引いちゃった」
突然背中にかけられた声に振り向くと、香奈は言葉とは裏腹に涼しい顔で自分の鞄に手をかけていた。
苦笑しながら、私も同じように鞄を手に取る。
下校時刻を知らせるチャイムが、もうほとんど何の音もしなくなった校舎中に響き渡る。
「下校時刻になりました。まだ校内に残っている生徒は――」
誰かの肉声が無機質な機械音に変わって私の耳に届いた。
「かえろっか」
そう言って、私は香奈の方へと歩いて行った。
香奈はすでに教室の扉の前に立ち、電気のスイッチに手を触れていた。
パチン、という軽い音を鳴らしながら、教室の明かりが一つ、また一つと消えていく。
閉め忘れていた窓から差し込んでくる外の光が、私の足元を照らしてくれていた。
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