ネット裁判員

3/13
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 色々聞かれた。トラブルを抱えていなかった、とか。誰かに恨まれたり陥れられたりするほど密な人間関係なんて僕や弟の周りにはない。挙げ句、事件性のない成人の失踪は本人の意志と見なされ、本人に何かあった時――例えば死体で見つかったとか事件を起こしたとか――でない限り積極的に捜査はしない、と言われた。隣で聞いていた母が卒倒しそうになっため、僕は警察官に抗議した。  もうすぐ番組改編で新作アニメが始まり、ソーシャルゲームのイベントではレアグッズがもらえる。新作だってリリースされる。そんな大事な時期に弟が失踪や自殺なんかするはずがない。そう食ってかかりたかったが、生来の押しの弱さと滑舌の悪さでうまく言葉が出ない。父に来てもらえばよかった。  そして僕たち家族はこのふた月、人捜しのビラを駅前で配ったり、思いつく限りの人に電話したり、思い出の場所的なトコに行ってみたりもしたんだが何の手がかりもなかった。弟は思い立って一人旅に出る、なんてタイプとはほど遠い。行動範囲なんてたかが知れてると思ったのに――頑張って遠縁の親戚や昔の知人にまで電話したが一時間もかからないうちに、全く手がかりのないまま終わってしまった。たくさん友達がいる上に日々誰かと知り合い続けてる「人づきあいバカ」みたいなヤツの方がこういう時、かえって捜しやすいのかもしれないな。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!