ネット裁判員

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 適性検査はリアルタイムで炎上しているブログやSNSにリンクに誘導され、そこにコメントを残してくるというものだった。それでまた納得した。  それに合格すると今度は、添付ファイルで裁判員としての細々した規約や注意事項が膨大に送られてきて、後日、ファイルの内容を理解しているかどうかテストが行われた。僕はそれも受かって正式にこのサイトの裁判員となり、弟の案件も受理された。けっこうしっかりしてるんだな。  僕が担当する第一回目の審理が始まった。審理は12人の裁判員しか入室できないチャットルームで行われ、必要な場合は原告に質問をしたりAI裁判長に助言を求めたりできる。当然だがリアルの裁判員裁判とは全く違う。  原告は学校でいじめにあった過去を持つ男だった。いじめがきっかけで引きこもりになり、紆余曲折を経て自分で小さな店を構えるまでになった。最初、店の経営は順調だった。だが同業の大型チェーン店が近所に進出したとたん売り上げがどんどん減り、様々な経営努力も追いつかずついに潰れてしまった。彼に残されたのは絶望と莫大な借金だけだった。  しかもその大型店を経営するのはいじめっ子の一族で本人が社長に収まっていた。借金を返済し生活を立て直さなければならない原告だが、精神を病んでしまいとうぶん働けそうにない。ひどい話だ。社会にはこの手の不条理な話がどれだけ転がっていることか。  証拠としていじめられていた当時の本人の日記やカウンセリング記録、店の売り上げデータなどが示されたが、そんなの見るまでもなく有罪だろ。このサイトのいいところは、物的な証拠や法的根拠があろうとなかろうと「感情的に許せない」という裁判員が思ったら有罪にできるところだ。
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