ネット裁判員

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 「制限時間になりました。評決をどうぞ」という表示が出て投票のフォームが出た。これもいいところだ。議論の終了時間が決まっているからみんなが練りに練った言葉でテンポよく自分の意見を述べてくるから議論がより深まる。だがこの案件に関しては間違いなく全員一致で有罪だろう。  と思っていたのに評決の結果は有罪11、保留1。保留の裁判員がどちらかの結論になるまで議論は続けなければならない。誰がどちらに投票したのかは僕らにはわからない。審理の過程で意見が対立したり、いつまでも保留にしている裁判員がいたとしても攻撃するのは規約違反だ。サイトの出入りが禁止になるばかりでなくペナルティーもあるとか。 「『保留』にした人の理由を聞きたいです」  こういう呼びかけなら違反にならない。と、ハンドルネームならぬ裁判員ネーム「ヒカリ」という人物が答えた。女性だろうか。 「皆さんが許せないという気持ちはよくわかるんです。私もそうです。原告の方もお気の毒だと思います。ですが、相手が原告の方のお店と知って敢えて近くにライバル店を出したかどうかまではわからないと思って……」  この意見にはもちろんたくさんの反論がきた。 「原告は過去に理不尽な目に遭い、必死に努力してやっと社会復帰したのに再び理不尽な目に遭ってさらに社会復帰が難しい状況に追い込まれた。二度とも被告が原因だ。十分じゃないか」 「法の網目をくぐり抜けた悪を裁き、救われぬ弱者を救う。それこそが我々の役目じゃないか」  ヒカリさんは「そうですね」と答え、次の投票では全員一致で「有罪」となった。
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