ネット裁判員

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「一度本人を読んで改めて話を聞いてみないか」  僕の提案に全員が一致し、女子高生が召還されることになった。もちろん必要に迫られての決定だが、アニメやゲームの中でしか口を聞いたことのない制服姿の女の子――よこしまな興味が全く無かったと言えば嘘になる。そういう男性裁判員は僕だけじゃないはずだ。 「エリナの気持ちがわからないなんて、あんた達、バカなの!?裁判員って大したことないね!」  登場した原告ネーム「エリナ」に我々の甘酸っぱい幻想は早速打ち砕かれた。 「落ち着いて。気持ちをぶつけるだけじゃ相手になかなか伝わらないもんだよ」  僕は彼女の登場とともにこの案件を放り投げたい気持しかなくなった。規定違反になりそうな発言で頭の仲が一杯になりながらかろうじて沈黙を守っているのは僕だけではないだろう。しかし、数人の裁判員は大人力を最大限に発揮して根気よく意志疎通を試みている。すごい。人間できてる。 「あなたは今まで何不自由なく、いやむしろ一般庶民より数ランク上の生活をしてきた。なのに、ある日突然家業が傾いて進学すらままならないような状況に陥って苦労している。理不尽さに憤る気持ちや辛くてやりきれない気持ちはわかるわ。ただ、あなたが誰に対して何を償って欲しいのかがよくわからないの」 「その通り。感情的になって思いついたままに全部書くのが訴状ではないよ。我々は要点を整理して君の意思を確認したい」  僕達がリアルで出会う大人達がみんなこれだけ正義感と受容力があって理路整然としていたら、僕も弟もこんなに生きづらくなかったのに。 「はあ?誰に償って欲しいかって?全部よ!ぜ・ん・ぶ!あんた達だってムカつくようなこと言ったら、訴えちゃうんだから!地球上のヤツら全員死ね」  この少女も規約通り12回のネット裁判員を経て原告になったのか?確かにこの裁判では、リアルの裁判では相手にしてもらえない「言った言わない」レベルの問題や感情的な問題まで酌んでもらえる。しかし、原告がエリナみたいに自己愛が強くて感情的すぎる人間だと大変なことになる、とこの時に気づいた。とりあえず彼女の担当した審理がメチャクチャ難航したことだけは想像できる。
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