ラムネ

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小さな町の神社。 昼間は境内で遊ぶ子供達で賑わうも、夕方を過ぎれば人気もない淋しい場所。 でも、年に一度。お祭りの日だけは、夕方からも賑やかになる。 子供達はもちろん。その親に、振る舞い酒を目当てにやって来る他所の土地の人達。 夜遅くまで、祭囃子の音色が途絶える事なく、境内を赤い提灯が彩る淡く華やかな世界。 進学で東京に行った私からみれば、その灯りも随分ちゃちだけど、都会にはない優しさがあの明かりにはある。 「やっぱり、いいなぁ」 なんにもない田舎を嫌い、東京の大学に行ったものの、なんだかんだで、その田舎が好きで戻ってきてしまった。 「オバサン、ラムネ頂戴!」 感傷に浸っていると、小さな子供が百円を握りしめて立っている。 「ほい。百円ね」 百円と引き換えにラムネを手渡すと、笑いながら走り去っていった。 「オバサン、か」 まだ言われたくないワードに少し傷付くも、あれくらいの子からみれば、ギり平成生まれの私は、確かにオバサンだと納得もする。 「お姉さん、僕にもラムネを」 優しげな声にハッと顔を上げれば、見慣れる顔の男性。 お祭りだから、他所から来た人かしら? 「はい、百円です」 少し気にはなるけれど、それだけ。 ラムネを手渡すと、次々やってくるお客さんの相手をするうちに、そんな事も忘れていく……。
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