1.当たり前が当たり前ではなくなるとき

3/5
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
2.  私は、それからの出来事を思い出せないし、思い出したくも無い。ただ一つハッキリと思い出せることといえば、パパとママの葬儀の合間に、親戚たちによる私の引き取り手をさがす“フリ”をした押し付け合いをする光景だった。それを傍から見ていた私は、人とはここまで醜くなれるものなのだと悲観し、感心してしまうほどで、寂しく孤独だった。  「俺の家へ来い!!」  感心と寂しさにふけっていると、一人の男の人が話し合いの席へ割って入り、そんな一言を私にくれた。その男の人の事情を聞く限りでは、私のパパと会社が一緒で仕事以外でも交流があった友人だという。名前を……早坂広一さんといったかしら。  「栞ちゃんを目の前にして、ここまでバカらしい話をするくらいなら俺が引き取る。こんな腐った連中に俺の友達の大切にしていた子供を預けてたまるか!!行くぞ栞ちゃん!!」  私は、広一さんに手をつかまれ、周囲の声など意に介さず、どんどんと出口のドアへ引っ張って行かれ、半ば強引に連れて行かれた。入り込んできた勢いとは裏腹に、広一さん……いや、私の新しいパパ?の手足はガタガタと震えていた。それから私は広一さんの車に乗り込んだ。家に帰るとのことだ。車の中で、パパのことを色々と話してくれた。会社ではいつも私の(=娘の)自慢話に付き合わされていたこと、私が中学に入学したときなんて結婚相手まで心配していたという。恥ずかしさのあまり逃げ出したくなってきた。羞恥心に身もだえていると、私を乗せた車は、2階建ての真新しい家の駐車場に入った。車を降りて玄関先までついて行くと、広一さん……パパは大げさに両手を大きく広げ、自慢げに宣言した。  「ようこそ早坂家へ!!ここが“新しい”栞ちゃんの家だよ!!去年買ったばかりの新築さ!!」  と迎えてくれた。やけに『新しい』を強調すると思ったけれど、なるほどそういうことね。 パパに連れられ玄関をくぐった。  「お、おじゃましま~す。」  「違うよ栞ちゃん。『ただいま』だよ。」  パパは『キまった』とでも言いたそうな顔でこちらを見ていた。(パパはよく分からないけど、ロマンチスト?格好つけたがり?)よく分からないことだらけだ。  「た、ただいま……」  「うん!!おかえり栞!」
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!