1.当たり前が当たり前ではなくなるとき

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 「あっ、栞ちゃんだね!ヤッホー美佳で~す!『お姉さま』って呼んでもいいのよ~」 またまた強烈な人が出てきた。緩やかなウェーブの髪とスタイルは母親譲りに、目鼻立ちはハッキリしている父親譲りの顔。モデルのような人だ。しかも、明るくテンションが高くて、少しポンコツそうな人。……お姉ちゃんなのかぁ……大丈夫かな。  「こんにちは、初めまして、春風……じゃなかった、早坂栞です。今日からお世話になります。お、お姉さま……。」  『お姉ちゃん』と言おうとしたら、なんだか悲しそうに見つめられてしまったので、つい『お姉さま』なんて言ってしまった。どうにかしどろもどろになりながら挨拶を済ませると、おねえさ……お姉ちゃんは、なぜか私にギュッと抱きついてきた。しかもなぜか泣きながら。でも、私も抱きしめられているという安心感からか、ホッとしたし張り詰めていた気が緩んだ気がしたからか、涙が頬を伝いやがて二人で抱き合いながらひとしきり泣いた。ママはと言うと、頭痛の時にこめかみを押さえるような格好で、呆れたような顔をしているだけ。  美佳お姉ちゃんと抱き合って泣き晴らしたところで、さっきの階段からまたひとり、今度は男の人が下りてきた。当然、私とお姉ちゃんは特に理由も無く抱き合っているわけで、展開が私にも簡単に想像がついた。  「わりぃ!!タイミングミスった!!おおおお終わったら呼んでくれ!!」  ほら、予想した展開になっちゃった。って、のん気に予想が当たったからって、喜んでる場合じゃない!!誤解を解かなきゃ!!  「ゆ う い ち、どこ行くの。栞ちゃんに挨拶なさい。」  その場にいるママ以外の全員が凍り付いてしまいそうだった。パパなんか、最初にママからの渾身の一撃をもらい気を失っているのにガタガタ震えている。笑っているのに笑っていない。支離滅裂だが、この表現以外にいくら探しても見当たらない。ママ……本当に怖い。お姉ちゃんなんか、私に抱きついたままガタガタと震えて、ヒザから崩れ落ちてしまいそうになっている。  「その……早坂祐一です。歳の順番だと、俺は兄になる。」  こうして、新たな時を刻み始める早坂家に私は心を巡らせていた。
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