なつかしいにおい

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毎朝仕事の前にコンビニ寄る。毎朝、アイスカフェラテと、タマゴのサンドイッチを買う。 アイスカフェラテはもちろん、ドリップしたものだ。最近のコンビニのコーヒーはあなどれない。ともすれば、喫茶店よりも美味しかったりするから、どこのコンビニのアイスカフェラテが美味しいか飲み比べをしたが、気に入りはあるけれど、だいたい遜色ないくらいに美味しい。 『今日も暑いね!』 毎朝いる定員さんの『よねだ』さんというおばさんが声をかける。 『アイスカフェラテね』 すでに常連になっているので、よねださんは ーよねだって漢字なんだろう。米田かしら。それとも与根田かなー 飲むのがあたりまえな口調で、いってらっしゃい! と、元気に声かけしてくれる。はい。いってきます。ひとり暮らしのあたしに、唯一、いってらっしゃい! と、背中に声かけしてくれる人はなんとも、よねだのおばちゃんだけだ。 同じ時間に寄ると、同じ顔があるけれど、皆わりと他人で同じ空間にいるのに、いつの間にかあわなくなったりもする。出会いは必然なのだろうか。 眠たい目をこすりながら、アイスカフェラテにシロップを2つ入れた甘い液体をすすりながら、コンビニから出ていこうとした、せつな、あたしは、はっ!っと振り返った。 『秀ちゃん?』 いるはずもないのに、秀ちゃんのにおいがした。秀ちゃんの、作業服のにおい。秀ちゃんのタバコのにおい。2つが入り混じったにおいが、あたしの鼻梁をひどくおびやかした。 『秀ちゃん、秀ちゃん?』 あたしはつぶやきながら、キョロキョロ見渡した。秀ちゃんと同じ色したうぐいすいろの作業服を身にまとった男性が3人でコンビニに入っていった。 秀ちゃん、な、訳ないか。 秀ちゃんと半年前に別れた。同棲をしていたのだけれど、秀ちゃんは仕事が忙しいからと、言いながらうちに帰ってこなくなり、あげく、出ていった。嫌いになったわけじゃないんだ。 だったらなんなの。あたしたちは、ひどくその議題で揉めた。疲弊もしたし、おおよそあたしばかりが嗚咽をもらした。秀ちゃんは、最後のへんはただただ頭を垂れるだけで、すまない、と、だけ言い淀んだ。 『やだ!別れたくない!お願い、やだぁ』 ほとんど泣いてばかりいた。最近ようやく日常を取り戻し始めたぶんだったのに。 秀ちゃんのにおいにあたしは再び目頭を熱くした。まだ好きなみたいだ。
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