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2章 共有
いや看守にしては幼すぎないか? ここで働ける年齢には見えないが。
「誰だ?」
「さあ?」
そのフリフリは俺と一瞬だけ目を合わせると何を考えたのか鉄格子のカギを開け始めた。
ガチャリ。
重々しい音とともに俺と外界を隔てていた扉が開かれた。
「――っ!」
俺が呆気にとられているうちにあろうことか俺の隣に座っていたマイケルが突然その開いた入口に向かって走り出した。
「どけやっ!」
半開き状態だった鉄扉にタックルする勢いでその少女ごと跳ね飛ばし、マイケルは外に出ていった。
マイケルの判断の速さと度胸には驚かされるばかりだ。
俺が呆気に取られていると
「……いたたた」
盛大にしりもちをついた少女はマイケルを目線で追ったが特に騒ぐ様子もなく、よっこらしょと立ち上がり、俺に向き直った。
スカートに着いた砂埃を落としながらついに中に入って来た。
俺は逃げる意思がないことをアピールしようと、両手を上げ、次の反応を待つ。
これから何をされるのかと内心不安に思いながら、少女が近づいてくるのを見ていると、特に何をするでもなく、じーっと俺を見つめ返してくる。
「えっと、桐生白杜さんで合ってますか?」
「……知らないな」
「じゃあ、名前は何ですか?」
「……名前は、まだない」
別にあの文豪の猫をリスペクトしているわけではなく、本当にその通りで名前はまだないのだ。
さっき聞かれた桐生白杜という名前は確かに俺だが、この場所、この世界、もっと言ってしまえば、この人生での名前ではない。
「質問を変えますね。NLLっていう会社に聞き覚えは?」
「お前、何者だ?」
この世界ではその名前を知っているのは俺だけのはずなんだが。少なくとも俺が生きてきたいくつもの人生でその知識を共有できる人は誰一人としていなかった。
そもそも、それこそがNLLのシステムだったはずだ。それなのに、どういうことだ?
そんな俺の疑問を解消するように、少女は答えた。
「そんなに警戒しないでくださいよ。簡単に言うと私はNLLから派遣された、えっと係の人です」
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