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未来の日常
目覚まし時計が鳴るより早く真紀子は目が覚めた。と、同時に飛び上がる。
「今日はいつ?」
見慣れないけれど、この前見たばかりの部屋。そして、そばには小さな男の子がすやすやと寝ている。
(未来か~)
ドキドキと胸が高鳴る。ここでは私は人妻子持ち、旦那さんがいる。足音を立てないよう、そうっとリビングへの扉に近づいた。
テレビの音が聞こえる。静かにドアノブに触れた瞬間、
ガチッ、 ドン!
「痛っ」
「うわ!なに!?」
旦那である隆幸が驚いた表情でこちらを見ていた。近い・・・。
「びっくりした~」
「いや、それはこっちのセリフ。珍しいね、自分から起きられるなんて」
「いやいや、自分で起きてるでしょ」
私の否定に隆幸は目を丸くして驚く。そして、それに驚く私。
(なに!?私、いつも起こしてもらってるの?)
どこまで姫なんだよ、と未来の自分を羨みながらも喜ぶという複雑な思いになった。隆幸の支度が終わり、玄関までお見送り。
「行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
リュックを背負ってじっと見てくる隆幸。
「ん?」
「え?」
お互いに「?」が浮かび沈黙。すると、隆幸はもじもじと耳まで顔を赤くして、
「え、なに?そういう焦らしプレイなの?ドS?」
そう言って、キスをして出ていった。
(あぁ、なるほど。未来の私は毎日いってきますのちゅーをするわけね)
顔を真っ赤にして、私はその場で腰を抜かしてしまった。しばらくして、この時代の情報を得ようとパソコンを使って色々調べていくと、奏太郎が起きてきた。
「ママ~、保育園は?」
「え、保育園?」
五歳の奏太郎に持ち物を聞きながら準備を済ませ、保育園に連れていった。
「奏太郎、なんか私、ママみたいだね」
「え?ママはママだよ」
母親とはこういうものか、と何か大人を飛び越して親になるという高揚感に満ちている自分を見付けた。
奏太郎を保育園に送り届けてすぐにケータイが鳴った。画面を見ると、明美からだった。未来でも友達として繋がっていることが嬉しかった。
「もしもし」
「真紀子、奏ちゃん保育園行った?お茶しよー」
明美の指定した駅前の喫茶店に入ると、すでに明美がいて、その隣には高校の同級生、翔子がいた。二人とも髪型が変わり髪の色が明るくなっているくらいで大きな変化は感じなかった。時間を越えても違和感を感じないほど三人の会話は盛り上がった。
「実はさ、この前偶然2組の久保田くんに会ったんだけどね。」
久保田彰(あきら)はスポーツができる人気者。生徒会長を務めるなど、人前に立ってリードできる男女共に慕われる有名人。
「久保田くんってバスケ部の?真紀子のことが、ずっと好きだったっていう?」
「ぶっ」
飲んでいたアイスカフェラテを吹き出してしまった。
「そうそう。真紀子ラブだった久保田くん。それがね」
「ちょっ、ちょっと待って・・・、久保田くんが私のこと好きって?」
私は慌てて話を遮ると、
「忘れたの?飲み会での告白」
告白?誰が?誰に?自分でも顔が赤くなっているのがわかった。
「ああ、通称飲み会告白事件」
「そのままじゃん。誰もそんな言い方してないから。初めて聞いたわ」
そんな二人のコントのような会話もスルーされるほどに衝撃的。
「で、久保田くんの告白に私はどう返したの?」
本当に覚えてないの?というように二人は顔を見合わせて驚いていた。
「あなた、もっと早く言って欲しかったって泣いたのよ」
「泣いた?」
「それから二人は付き合うものだと思ってたけど」
うんうん、と二人は首をかしげて。
「あれはどういう意味だったの?」
(それは私が聞きたいわっ)
どういうこと?確かに久保田くんをいいなって思ったことはあったけど、それは1年生の頃の話だし、泣くほどではないと思うんだけど。ん?その時私は隆幸と付き合ってるのか?
「隆幸さんと付き合い始めたのはそのずっと後だよね」
私が気にしていたことをズバリ聞いてくれたのは、翔子。それに対して、
「飲み会告白事件の二年後くらいだよ。始め、結婚はないわ~って言ってたもん」
「年下をもてあそんでる悪女感あったよね」
あははと笑う二人に自分をぶん殴りたいくらい恥ずかしくなってきた。はたして、殴るのは過去の自分?未来の自分?今の自分なら過去だし、でも今の私は過去の自分で私からしたら未来だし・・・。その悪女は、何者?
この時代をわかってくると、さらなる疑問も生まれ混乱状態になった。
奏太郎を迎えに行って御飯を作っていると、隆幸から「夕飯先に食べていて」とメールが入っていた。奏太郎はとてもよくできた子で、自分からいただきますの挨拶や茶碗の片付けもこなした。
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