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「ママ~、起きて~。マ~マ~」
平凡な高校三年生の山本真紀子の不思議な日々がこの時から始まった。
?が浮かぶまどろみの中で、真紀子は小さな手で体をゆすられていた。眠い目をこすりながらやっとのこと目を開けると、そこには4歳くらいの目のクリッとした丸顔の可愛い男の子が満面の笑みで「マ~マ~」と繰り返している。事態を理解できずに微動だにしない真紀子に、男の子は抱き着いてくる。
(何が起きている・・・?)
辺りをキョロキョロと見回しながら、頭の中の霧がはれていく。ドクンドクンと鼓動が高まる。声にならない声が口から漏れ出す。
「あ、え?・・・え?」
(ここは?この子は?私は?)
昨日はいつも通り家に帰り、ご飯を食べてお風呂に入って、ベットの中で友達とラインを交わしてそのまま眠りについたはず。しかし、今目覚めると知らない部屋で見覚えのない子供に抱き着かれている。真紀子はその子を優しく引きはがすと恐る恐る聞いてみた。
「あの~、君は・・・?」
「ママ、おはよう♪」
真紀子の問いを理解していないのか、男の子はキラキラと輝く瞳で挨拶をしてくる。真紀子はやっとのこと「おはよう」と笑顔を返しながらも、先ほどから自分に向けられている「ママ」という言葉に息が止まりそうな驚きを感じている。そしてふと、自分の左手の薬指を見て頭の中が真っ白になった。
(これ結婚指輪・・、だよね?)
「パパー、ママが起きたよ~」
「パパ!?」
男の子が大きな声で叫ぶと、真紀子の動悸が最高潮に達し、心臓の音がドカンドカンと響いて完全に眠気は吹き飛んでいた。確かに、部屋の外からは物音が聞こえてくる。テレビの音、あとはガスでお湯を沸かす音だろうか。
(パパというのは、ママと結婚した人。ママとは私のこと・・。つまり、パパという人は、私と結婚した人・・・、私の旦那さん??)
耳まで真っ赤にさせながら、真紀子の頭はぐるぐるとパパという言葉が回り続けている。
「奏太朗~、ママを連れてきて~」
(うわ!?)
大人の男の人の声が部屋の外から聞こえてきて、真紀子はとっさに布団に潜り込んでいた。
「ママがまた寝た~。起きて~」
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