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「おはよう、・・ございます・・」
びくびくとしながらも、リビングに行くと男の人がイスをひいて座るように促す。
「おはよう。今、お湯が沸くから」
と、キッチンに行くとインスタントコーヒーにミルクを入れて目の前に出してくれた。焼きたてのトーストもある。隣で奏太朗がパンを食べ終わり、牛乳を飲んでいる。
「あの・・・」
聞きたいことは山ほどあったが、まさか「彼方は誰ですか?」とも聞けずに困っていると、
「何?寝ぼけてるの?今日は何の日か覚えてる?」
「おいおい」とでも言いたげな表情だったが、とてもやわらかな口調。この人はきっとすごく優しい人なんだな、と思わせるような雰囲気をもっていた。
「あ、え~と・・。うん、わかってるよ。大丈夫♪」
真紀子は「何が大丈夫なんだか」と自分にツッコミを入れたくなりながらも、彼の疑いの目を見れずに焦っていた。
「じゃあ、よかった。今日は千秋楽でしょ。全勝の横綱が寝ぼけてたら大変だよ。取り組みは夕方から、全勝優勝目指して頑張ってね!」
(は?横綱?私が・・・?)
頭がパニックになりながらも、真紀子は話を合わそうと必死でいる。
「よし、今日の取り組みも頑張るぞ!どすこ~い」
「え?」
彼の唖然とした顔に、冷や汗が流れる。
「・・・本当にどうしたの?こんなボケに付き合ってくれる真紀子さん、初めてだわ」
(え?ぼけ?)
くっくっくっと笑いながらも、
「熱があるんじゃない?」
と言って真紀子の額に手を当てる。
(ぎゃーーーーーーーーー!男の人の手が私の顔に!そして、顔が近いよ~!)
「いやいやいや、ほんとに困ったもんだよ。結婚指輪を見なさい」
彼に言われて、左手の薬指の指輪を外す。リングの内側には、『MAKIKO・TAKAYUKI・2026.5.15』と書かれていた。
(この人、たかゆきって言うのか。今日ってもしかして・・・)
辺りを見回し、カレンダーを見つけて日にちを確認する。
「2031年、5月15日・・・」
(10年後だ)
自分が高校三年生だった時から、10年の時が経っていた。しかも、今日が結婚記念日。
「今日は大切な日だよ。早く朝ご飯食べて出掛けよう」
隆幸(たかゆき)は、真紀子の頭をくしゃくしゃっと撫でて、てニコニコと笑った。
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