奴が来た

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匂いにも妙に敏感だった。 人でいえば煙草の匂い、汗の匂い、お酒の匂い、香水の香り。 外に出れば季節の自然な草花の香り。磯の香り。 煙草を吸う人で、なおかつ長距離のトラック乗りともなれば、お風呂も満足に入れず、この時期とくに汗の匂いがするはずなのに。 「ありがとう――」 「お姉さん、彼氏いてんの」 ございましたという言葉に被せるように。 言葉をなくした。 「いや、あの、えっと……」 「おれへんな、よし。ほんじゃ、また来るわ。おおきに」 「はっ??えっ!?いや、いますけどっ!!」 あまりに一方的に言い逃げされそうで、悔しかったので、咄嗟に口を突いて出ていた。 ―――好きな人くらい、いるわよ。
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