第一章 九官鳥の場合

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「なるほどね」  そうこういうしているうちに、慎吾が資料を閉じながら、そう呟いた。  慎吾に敵意の眼差しを向けていた刑事たちも、私と遊んでいた婦警さんたちも、みんなの視線が慎吾に向く。 「笹倉。犯人は被害者宅の使用人、小豆畑だ」  いきなりの犯人名指し。巡査部長が慌てて、慎吾の隣までくると、資料をめくる。 「小豆畑って……、ああ、この大人しそうな若い子?」 「どんな人だっけ?」 「あの、おさげの子だろ」 「ああ。あの、雇われたばっかりとかいう?」 「おいおい、探偵。そんな子がどうやってヤったっていうんだよ」  刑事たちのやりとりから、この人物はそもそも重要視されていなかったのがよくわかる。  しかし、それでも、名探偵が犯人というのならば、その人物が犯人なんだろう。 「つーか、雇われたばっかりっていうのが、怪しいだろうが」  まあ、確かに。通常の事件ならばそうでもないが、名探偵が出てきた以上、雇われたばかりというのは疑ってください、と言わんばかりの役どころだ。 「裏はとれてないから現時点では、ただの勘だけど……、彼女は金持が金貸し業をしていたころ、なんか関係があるはずだ。まあ、ベタなところだと、両親があいつから金を借りて、取り立てに苦労して自殺、とかかな?」 「根拠は?」 「金持が金貸し業をしていたのは、二十年以上前の二年間だけだ。金持の仕事内容といえば、今ぱっと思いつくのは」 「不動産業?」 「そう。それなのに、彼女は取り調べのときにこう答えてる」  そこで慎吾は、ちょっと声色を変えて、 「借りたものを返さない人には厳しい方だったので……恨まれているということも、あるかもしれませんね」  とんとん、と資料の該当箇所を指で叩く。というか今のは、物真似のつもりか? 本物を見ていないから似ているかどうかもわからんが。 「不動産で揉めるのは、借りたものを返さないというよりも、家賃が払える払えないだろ、普通。これは金貸しの頃の話だ。二十年以上前のことを、この二十二歳の女の子がここまで細かく知っているっていうことは……身に覚えがあるんだろうよ」  おい、誰か小豆畑の居場所を確認しておけ! そんな声がする。
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