第一章 九官鳥の場合

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「じゃ、じゃあ渋谷。 部屋が密室だったのは?」 「密室に関わってるのは……、残念だけど、茗ちゃんの依頼人だろうな」 「金持豪志?」 「ああ、おそらく、金を盗みに入るつもりだったんだろうよ」  慎吾が一つため息をつく。 「犯行時、部屋には隠れた豪志がいたんだと思う」 「現場を見ていたってことか?」 「ああ。金を物色しようとしていたら、被害者が帰ってきて慌てて隠れた。そんな感じだろうな」  そのまま出るに出られずいる間に、小豆畑が被害者を殺害した。 「いやいや、待てよ。そもそも金持豪志はどうやって被害者の部屋に入ったんだよ?」  鍵は被害者しか持っていなかったというのに。 「写真を見る限り、犯行現場の鍵は簡単にピッキングできるものなんだ」 「え、あんな古そうで厳重そうなのに?」 「古いからこそ。ちょっとネットの質問掲示板にでも書けば、さくっとあけ方を教えてもらえるよ。コツがあるんだ」 「……なぁ、お前なんでそんなこと知ってるんだ?」 「探偵としての基本情報だよ」  どんな基本情報だよ。 「部屋を密室にしたのは、豪志だ。あの鍵、開けるのも簡単だけど、閉めるのもコツさえつかめば簡単なんだよ。それで、部屋を密室にして不可能犯罪っぽくしたんだ。あーあと、それから、防犯カメラ。あれもイジっただろうな。ここで使っている防犯カメラは、あるコードさえ知っていれば、簡単に上書きできるからな」 「……お前、まさかやってないよな?」 「やらねーよ」  どうだか。時と場合よっては、やりかねないぞ、この男は。 「屋敷に誰もいなかったのは?」 「それは、偶然の産物だろうよ。密室トリックだのなんだの、壮大なトリックを使っての殺人なんて、現実ではそうそうないしな」 「……名探偵なんていう非現実的な存在に言われるとは、おそれいるよ」  まあ、現実なんてそんなもんかもしれない。
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