第一章 九官鳥の場合

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 巡査部長に送られて、警察署の一階まで戻る。 「あ、いた、慎吾」  受付付近にいた硯さんが駆け寄ってきた。 「時間が空いたから。気になって。解決した?」 「俺サイドでは。あとは、笹倉たちの仕事」 「それが大変なんだってば」 「ごめんね、笹倉くん」 「いえいえ、いいんですけど」 「仕事だからな」 「お前に言われると一気にむかつくの、なんでだろうな」  そんな会話をしながら、玄関まで向かおうとしたところ、  パシャパシャ!  何かたくさんの音と光がして、そちらに視線を向ける。騒がしい。  ちょうど、玄関を偉そうな人が出て行くところだった。それを取り込む人々。カメラ。必死にその人をかばおうとする警備員のような人。今のはカメラのフラッシュだったか。 「あー、例の政治家の汚職事件のやつか」  つまらなさそうに巡査部長がつぶやく。  なるほど、取り調べを終えて出てきた政治家を、マスコミが取り囲んでいる図、といったところか。  シャッターとフラッシュが続く。  がっしゃん!  すぐ近くから別の音がして、私がそちらに視線を移すのと、 「茗!」  慎吾が叫ぶのは一緒だった。  流れるように私を巡査部長に預けると、座り込みそうになった硯さんの肩を支える。  硯さんの足元にはカバンが落ちている。  ああ、さっきの音は彼女のカバンが落ちた音か。  慎吾に支えられた硯さんの、顔色は悪い。真っ白だ。  どこか、目の焦点もあっていない。 「ダイジョウブ?」 「硯さん?」  私と巡査部長が、状況がつかめないまま呟く。  慎吾が硯さんの頬を両手で挟むと、自分と強引に視線を合わせる。 「茗!」  それで、さまよっていた彼女の視線が慎吾に向き直った。 「あ……、シン」  そのか細い声に、少し慎吾が安心したような息を吐く。  そのまま、硯さんは両手で顔を覆った。 「ごめん、なさい」  そんな彼女をなだめるように、慎吾が頭を撫でる。 「仕方ないよ。急だったから」 「ごめんなさい、大丈夫だと、思ってたけど」 「謝らなくていいから」  慎吾にしては、真剣に心配そうな顔をしている。真面目な顔も、やろうと思えばできるじゃないか。 「大丈夫。油断していたから、びっくりしただけ」  と、なんだか二人にしかわからない会話をする。
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