第二章 刑事の場合

19/19
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
 しかし、しょっぱいねぇ。その二人が共犯者なら、硯さんのことは簡単に解決する。ミステリにもなりゃしない。  だから、名探偵の恋人になんか手を出しちゃいけないんだ。名探偵を私情で怒らせてしまったから。話の筋は塗り替えられ、綺麗な謎解きにはならない。解決が強引になり、犯人の扱いは適当になる。  硯さんに手を出した段階で、今回の事件は連続殺人事件ではなく、名探偵と恋人の物語になってしまったのだ。と、言っても過言ではないだろう。ゲストキャラである犯人には、この理屈はわからないだろうけど。  というか、これは理屈ではない。そういう現象なんだ。名探偵と絡んでしまった以上、発生してしまう現象。自然災害の前では、刑事だって無力だ。  その名探偵様は、あの時の謎解きで、だいぶ無茶をしたらしい。カマをかける発言をして、おぼっちゃまを怒らせ、殴られていた。顔に盛大にあざを作って戻ってきて、俺の肝を冷やしたが、本人は、 「ま、これぐらいで済んでよかったよね」  とへらへら笑っていた。あいつらしいといえば、あいつらしいその態度に、ちょっと安心したのは内緒だ。  本当に、硯さんがいなくなってからのあいつは、あいつらしくなくて見ていて居心地が悪かった。  その硯さんは、熱が上がって三日間入院したが、今は元気だ。怪我の方は、幸い頭も足も大きなものではなかったようだ。  俺はいつもどおり、捜査一課の刑事として仕事を続けている。現場であいつに出遭わないように祈りながら。どんなしょうもない事件でも、名探偵が絡めば大事になってしまうのだから。  長い付き合いの友人だとは思っているし、硯さんにとっては素敵な恋人かもしれない。だけど、あいつは疫病神の名探偵だ。  そう思っている。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!