第一章 九官鳥の場合

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 硯さんが帰ってすぐ、慎吾は身支度をし、外に出た。私を移動用キャリーに入れて。  やってきたのは、私にとっても馴染みの警察署である。  慎吾は受付である人を呼び出す。  そして嫌そうに現れたのが、 「何しに来た、馬鹿探偵」  笹倉譲巡査部長。捜査一課の刑事さんで、慎吾とは大学時代の同級生なんだそうだ。慎吾とはよく事件現場で顔をあわせることが多い。  つまり、名探偵の効力に巻き込まれた被害者の一人である。かわいそうに。 「ご挨拶だなー、笹倉。茗ちゃんからの依頼だよ」 「硯さんの? あー、金持の……」 「そうそう。だから、資料見せろー」 「部外者が無茶言うんじゃねーよ。つーか」  そこで巡査部長の視線が、私に移った。 「なんでクロ連れてるんだよ」 「今日はこの後、キューの健康診断なんだよ。一ヶ月も前から予約してたんだから」 「ゴンベイ!」 「ついでか」  呆れたような顔を巡査部長はする。まあ、気持ちはわかる。所詮、この名探偵にしてみればその程度の事件、ということなのだから。 「いや、でも笹倉。冷静に考えてみろ?」  真面目な顔をした慎吾が、人差し指を突きつける。 「俺に見せた方が、はやい」 「悔しいけどそのとおりなんだよ……。だからむかつくんだけどな」  民間人に頼るなど、おおよそ警察組織の人間とは思えない発言だ。だがしかし、この名探偵にいつも振り回されていれば、あきらめが先に来てしまうのもよくわかる。最近知った言葉によると、慎吾はそう、「チート」なのだから。
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