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硯さんが帰ってすぐ、慎吾は身支度をし、外に出た。私を移動用キャリーに入れて。
やってきたのは、私にとっても馴染みの警察署である。
慎吾は受付である人を呼び出す。
そして嫌そうに現れたのが、
「何しに来た、馬鹿探偵」
笹倉譲巡査部長。捜査一課の刑事さんで、慎吾とは大学時代の同級生なんだそうだ。慎吾とはよく事件現場で顔をあわせることが多い。
つまり、名探偵の効力に巻き込まれた被害者の一人である。かわいそうに。
「ご挨拶だなー、笹倉。茗ちゃんからの依頼だよ」
「硯さんの? あー、金持の……」
「そうそう。だから、資料見せろー」
「部外者が無茶言うんじゃねーよ。つーか」
そこで巡査部長の視線が、私に移った。
「なんでクロ連れてるんだよ」
「今日はこの後、キューの健康診断なんだよ。一ヶ月も前から予約してたんだから」
「ゴンベイ!」
「ついでか」
呆れたような顔を巡査部長はする。まあ、気持ちはわかる。所詮、この名探偵にしてみればその程度の事件、ということなのだから。
「いや、でも笹倉。冷静に考えてみろ?」
真面目な顔をした慎吾が、人差し指を突きつける。
「俺に見せた方が、はやい」
「悔しいけどそのとおりなんだよ……。だからむかつくんだけどな」
民間人に頼るなど、おおよそ警察組織の人間とは思えない発言だ。だがしかし、この名探偵にいつも振り回されていれば、あきらめが先に来てしまうのもよくわかる。最近知った言葉によると、慎吾はそう、「チート」なのだから。
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