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第二章 刑事の場合
一言で言うならば、最悪だ。
「なんでお前がこんなところにいるんだよ……」
頭痛をこらえながら尋ねた言葉に、
「旅行だったんだよ。それで吹雪にあって仕方なく泊めてもらいにきたんだ。大体、笹倉だって管轄外じゃないか」
飄々と渋谷は答えた。俺は仕事だよ!
「お前は旅行になんか行くなよ! ずっと家にいろよ! 迷惑だから!」
「ひでぇ! 俺の基本的人権の侵害だ!」
「侵害もしたくなるわっ!」
いらだちから、思わず声がでかくなる。
「歩けば死体に巡り合う、名探偵様なんだからさぁ!」
「大変だなー」
「お前のことだろうが!」
他人事みたいに呟く、この目の前の男。渋谷慎吾。職業探偵。人種名探偵だ。
この世に、名探偵という生き物がいるのはご存知だろうか?
事件を解決し、謎を喰らって生きる、そんな生き物だ。
その証拠に、名探偵のあるところ事件あり。死体あり。
「事件が起きるから名探偵がいるんじゃない。名探偵がいるから事件が起きるんだ、とはよく言ったもんだよなー」
慎吾がのんびりという。だから、誰の話をしていると思っているんだよ!
「事件の調査で、わざわざこんな山奥まで出張してみたら相方とははぐれるし、突然の吹雪で目的地にたどり着けないし、見つけた洋館に泊めてもらおうと思ってやってきたら訳ありそうな男女七人。他にもお泊まりの方がいらっしゃいますよ、とは聞いていたが、いざ食事の時間になったら目の前に名探偵が現れる! これはもう絶対百パー事件起きるだろうが、このどあほ!」
今は、食事を終えて俺用に用意された客室での話だ。こんな名探偵だのなんだのっていう話を一般人には聞かせられない。
しかし、急に現れた俺ら一人一人に部屋を用意できるなんて、一体この家はなんなんだよ……。
「事件が起きるとか言われてもなぁ」
慎吾がぼやく。
同僚や先輩は、こいつのことを死神と呼ぶ。さすがにそれはひどいんじゃ、と大学同期のよしみでしばしばかばっていたが、最近もうそれでもいいんじゃね? って思うようになっている。
あと、俺がこんだけこいつに振り回されているのって、絶対大学同期というつながりがあるせいだし。
そりゃあまあ、名探偵様の手足となる人物としてぴったりだろう。大学の同期で、今は捜査一課の刑事だなんて。ドラマならレギュラーだ。そんでもって、振り回される未来しか見えない。
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