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私、寿葉月は百貨店の孫娘。
知名度の高い寿百貨店のせいかおかげか、
寿という名前だけでお金持ちだと見られてきた。
寿なんて幸福な名前にも関わらず、現実は全くそうでない。
小さい頃から厳しい父と祖母は教養を身に付けさせようと、習い事に勉強を強いれられ、窮屈に生きてきた。
それに反発して叱られながら育つ姉を見ても、私は何も言えなかった。
母はそんな私を心配してくれていた。
母がいなければどうなっていただろう。
「お前は知らないが彼と結婚を望む女性は多いんだ」
私は父が怖く、「はい」と、反射で頷く。
「葉月、粗相のないようにな」
「はい……」
恋愛もしたことない私がいきなり結婚だなんてあまりにもむごい。
父が悪い相手じゃないということはきっと、お金持ちなのだろう。
どんな相手であろうが、今時政略結婚なんて時代錯誤もいいところだ。
私は愕然と立ち尽くす。
父が居間からいなくなり、母が私を抱きしめる。
「ごめんね、葉月」
母の声はひどく頼りない。
「お母様……」
母は悪くない。
悪いのはこの家なのだ。
「どんな方なの?お相手は……」
私は出来るだけ気丈に振る舞う。
「一度お会いしたけれど、凄く素敵な方よ、」
本当だろうか。
母が言うなら本当だろう。
「学校はどうすればいいの?」
今まで女子校だったが大学は共学で、恋をしたこともない私は密かに楽しみにしていた。
「大丈夫よ、心配しないの」
母の声は震えている。
私がここで泣けば母はもっと悲しむだろう。
「お母様が言うなら信じるわ」
きっと母は泣いてる。だから私は涙を堪えた。
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