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迎えた日曜日、父に急かされて私たちはお見合いの場であるホテルに向かった。
和室の間に通されればお相手のご両親は既に来ていた。
父とは面識があるようで初めから会話も弾んでいる。
それが途切れた時お相手の母親だろうか、女性が私に視線を向ける。
「あなたが葉月さんね、昔より綺麗になって……」
昔よりということは私を知っているのだろうか。
「ほら、葉月ご挨拶」
父に指摘されて、私は慌てて頭を下げた。
「あ、はい。娘の葉月です……」
私はうつむくしかできない。
「すみません」
父は穏やかを装っているものの、内心は違うはずだ。
あとで叱られるだろうかと思うが、私は顔をあげることもできない。
誰かここから浚ってくれないだろうか。
「いいのよ、葉月さんは昔から大人しい性格だったものね。弥生さんと違って」
私を知っているのだから姉を知っていて当然だ。
父は姉の話が出るのを嫌う。
私はそれが悲しくて、姉がいないものと化されるのが苦しかった。
姉ならばこの状況を救ってくれるに違いない。
姉を思い、胸が苦しくなる。
私が願ったのが伝わったように、遠くから足音が聞こえてきた。
もしかしてと疑うが、姉の足音とは違うものだった。
姉はこんなに力強くない。
私はそれが怖くて首をすくめた。
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