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私が部室を後にして、崎田さんに迎えを電話で頼むと、彼はもう校門の前で私を待っていた。
私は「すみません」と、車に乗り込む。
いつもより、遅い時刻で、気が焦る。
「あの、蓮池さんはまだお仕事ですか?」
彼は帰ってないだろうか。
「まだですよ」
「よかった……」
とりあえず、ほっと胸を撫で下ろす。帰ったらすぐに夕食の支度をしなければならない。
「あの、崎田さんは蓮池さんの運転手さんでもあるのですか?」
「いえ、旦那様は秘書が送迎します。旦那様自身、お車で行かれることもありますが」
乗せてもらったのだから、それは知っている。しかし、言えなかった。
「あの、崎田さんは秘書の方をご存じですか?」
「えぇ」
「そうですか……」
「どうかしました?」
運転中の崎田さんは、ルームミラー越しに、私を見つめた。
「いえ……」
「そうですか」
なんとなく、秘書がどんな人なのか気になる。
テレビドラマで見るような、美人な秘書を想像すると、気が落ちる。
昨夜から浮かれていたはずの気持ちが、ほんの少し萎んだ。
彼が帰宅したのは、私が夕食をすべて作り終えたころだった。
玄関で、出迎えると、今夜は無表情の彼の横に別の男性の姿があった。
彼と、同じくらい背の高い男性だ。
二人の大人の男性を前に、私は、思わず後ずさってしまう。
すると、蓮池さんの横にいる男性は「驚かせて申し訳あせん。秘書の米倉です。はじめまして」と、頭を下げた。
まさか、こんな形で秘書に会えるとは思わなかった。
しかも、男性だなんて予想が外れた。
「は、はじめましてつ、妻の葉月です」
妻と自分で言って照れてしまう。
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