455人が本棚に入れています
本棚に追加
米倉さんは荷物を運びに来たのだろう。彼は段ボール箱を持っており、同じく蓮池さんも紙袋を両手に抱えていた。
「お噂通り、可愛らしい」
「え……? 」
米倉さんは口元を緩めて、私を見つめている。
噂とはなんのことだろう。
しかしすぐ、蓮池さんが強い口調で「米倉、早くそれ俺の部屋に持っていけ」と、言った。
「はいはい。共哉の部屋はどこ?」
私に対してとは違う、くだけた喋り方に驚いた。秘書とはこういうものなのだろうか。
「わかるだろう……」
「いや、家具は選んだけど、部屋に入るのは初めてだよ。なんなら、奥様に案内してもらおうかな……」
米倉さんが私を見つめたため、私は慌てた。
しかし、また彼は荒っぽい口調で「こい、こっちだ」と、靴を脱ぎ捨てるようにして、足を中へ進めた。
二人が彼の部屋に消えると、私はお茶くらい用意した方がいいだろうかと、思い立つ。
急いで珈琲を用意すと、ちょうどそれを注いだところで、二人が再び顔を出した。
私はすかさず、「あ、あの、珈琲を飲んでいかれませんか?」と、米倉さんに言った。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて、いただきます」
「あっはい、どうぞ」
「蓮池さんも、珈琲どうでしょうか?」
「あぁ……」
米倉さんにはソファにかけてもらい、珈琲のカップを差し出した。
すると、「旨い。とてもいい味です」と、褒めてくれたため、安堵する。
「あ、ありがとうございます」
「蓮池さんも、どうぞ」
蓮池さんは「あぁ」と、言っただけだった。
「奥様は飲まれないのですか?」
「えぇ、私は……」
「すみません、僕だけいただいて……」
米倉さんは、かなり年下の私に丁寧だった。
きっと、彼と同世代に違いない。
米倉さんは、蓮池さんのような涼しげな見た目でなく、エネルギッシュさを感じるような、とても濃い顔をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!