455人が本棚に入れています
本棚に追加
米倉さんは突然に、「奥様はサークルに入られることにされたのですか?」と、尋ねてきた。
蓮池さんが話したのだろうか。
「いえ、でも実は今日見学に行きました」
すると、蓮池さんのほうが「見学に行ったのか?」と、聞き返した。
「はい、昨日蓮池さんとお話をしたので、足を運んでみました」
「そうか……」
彼は無表情で黙る。何を考えているのか少しも、わからない。
そのとき、米倉さんが私に一つの茶封筒を差し出した。
「奥様、こちらはフルート講師を何人かリストアップしたものを載せております。目を通されてください」
「フルート講師、ですか?」
「急いで探したので、お気に召さなければ、改めて探しますので」
なんてことだろう。
たしかに、蓮池さんは、昨夜探してくれていると言っていた。
きっと、米倉さんがそれを担ったのだ。
「ありがとうございます。あとで、見てみます。
あ、あのそれと……米倉さん。昨日のケーキですが、わざわざ買ってきていただき、ありがとうございました」
ケーキのことも、今思い出した。お礼が言えて、よかった。
「いえ、よろこんでいただけました?」
「はい。とても美味しかったです。本当にありがとうございました」
「いいんですよ、あれは、共哉が……」
米倉さんは何か言いかけた。しかし、蓮池さんが、「礼は俺もしたからいい」と、遮ったため、続きを聞くことは不可能だった。
「あっ、はい……」
彼は怖い顔をしている。
「共哉、怖いよ、顔」
「うるさい、お前もう帰れよ」
それは傷つくだろう。
私は思わず「蓮池さん」と、彼を呼んでしまう。
「なんだ」
しかし、彼の怖い顔を見て、口を閉じた。
「何でもないです」
「俺がお邪魔なんですよね。奥様今日はここで失礼します。ごちそうさまでした。美味しかったです」
「あっはい。何の御構いもできませんで、申し訳ありませんでした」
私は慌てて立ち上がると、玄関まで米倉さんを見送った。
最初のコメントを投稿しよう!