彼の優しさ

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米倉さんは突然に、「奥様はサークルに入られることにされたのですか?」と、尋ねてきた。 蓮池さんが話したのだろうか。 「いえ、でも実は今日見学に行きました」 すると、蓮池さんのほうが「見学に行ったのか?」と、聞き返した。 「はい、昨日蓮池さんとお話をしたので、足を運んでみました」 「そうか……」 彼は無表情で黙る。何を考えているのか少しも、わからない。 そのとき、米倉さんが私に一つの茶封筒を差し出した。 「奥様、こちらはフルート講師を何人かリストアップしたものを載せております。目を通されてください」 「フルート講師、ですか?」 「急いで探したので、お気に召さなければ、改めて探しますので」 なんてことだろう。 たしかに、蓮池さんは、昨夜探してくれていると言っていた。 きっと、米倉さんがそれを担ったのだ。 「ありがとうございます。あとで、見てみます。 あ、あのそれと……米倉さん。昨日のケーキですが、わざわざ買ってきていただき、ありがとうございました」 ケーキのことも、今思い出した。お礼が言えて、よかった。 「いえ、よろこんでいただけました?」 「はい。とても美味しかったです。本当にありがとうございました」 「いいんですよ、あれは、共哉が……」 米倉さんは何か言いかけた。しかし、蓮池さんが、「礼は俺もしたからいい」と、遮ったため、続きを聞くことは不可能だった。 「あっ、はい……」 彼は怖い顔をしている。 「共哉、怖いよ、顔」 「うるさい、お前もう帰れよ」 それは傷つくだろう。 私は思わず「蓮池さん」と、彼を呼んでしまう。 「なんだ」 しかし、彼の怖い顔を見て、口を閉じた。 「何でもないです」 「俺がお邪魔なんですよね。奥様今日はここで失礼します。ごちそうさまでした。美味しかったです」 「あっはい。何の御構いもできませんで、申し訳ありませんでした」 私は慌てて立ち上がると、玄関まで米倉さんを見送った。
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