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たぶん、余計なことを言い過ぎた。
私は「すみません」と、小さく呟くが、彼は何も言わず、ダイニングテーブルの椅子に座った。
もう、すべて食事は並べてある。
「食べていいか?」
「はい、どうぞ」
彼は「いただきます」と、手を合わせ、味噌汁を口に運んだ。
彼の箸使いは綺麗で、見ていて気持ちがよい。
「お味は大丈夫ですか?」
「あぁ、不味くない」
「よかったです」
もう、彼のそれが定番になっているため、褒められていないにも関わらず、ほっとする。
「なぁ、フルート講師の件だが、気を遣わずに見てみろよ」
「あ、はい。わざわざ、ありがとうございます」
彼は私を気を遣ってくれるが、はサークルに入るより、講師を雇ったほうがいいと思っているのだろうか。
「あの……」
「なんだ?」
それを聞きたがったが、聞けない。
私は無言で首を横に振っただけだった。
それからは何も互いに発っさないまま、彼は部屋に消えた。
一人になったリビングで私は米倉さんに渡されたものを見た。
米倉さんが見つけてきてくれた講師は二人で、どちらも素晴らしい経歴の持ち主だった。
どうしよう……
サークルの感じも良かったけれど、今日は見学に行っただけなのに、夕食作りに慌てた。
私は学生であるのと同時に妻である。
フルートを吹くことも、夕食の時間を大切にするのも両方したいと、私の決意は固まる。
蓮池さんに、お願いしようと思った。
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