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私は、翌日サークルを断るため、また部長を訪ねた。
断るなら早いほうがいいと思ったのだ。
私が彼に「ごめんなさい、できません」と、言うと、顔を歪められた。
「残念だな、上手いのに。君みたいな子を逃すのも、残念」
「え?」
「初めてだよ。わざわざ断りに来てくれた子は」
逆にそれに私が驚いた。
わざわざ時間を割いてもらったうえ、フルートも吹かせてもらったのに、何も連絡しないのは失礼なことだと思ったからだ。
「ねぇ、もうフルートはしたくないの?」
「え、いえ。自宅で練習するつもりです」
「そうなんだ……。じゃあさ、たまにでいいから遊びにきなよ」
「え、でも……」
遊びに来るなんて、できるわけがない。
そもそも練習もしないのに邪魔になるだけだ。
どう返すのが正解か迷っていると、彼が先に口を開いた。
「名前何だったっけ?」
「え?」
「君の名前だよ」
「こ、あっいえは、蓮池葉月です」
また寿葉月と、言ってしまいそうで、慌てて訂正した。
「葉月ちゃんね、僕は児玉義也。改めてよろしく」
私は“葉月ちゃん”と、呼ばれたことに、ひどく驚いた。
そのうえ、手を差し出され握手を求められてしまう。
私は戸惑い、握れないでいると、彼のほうから掴まれてた。
わりと強いそれが不快で、思わず手を引いた。
だが、それに彼が興味を示したことなんて、知るはずもなかった。
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