歳の差と距離

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意外にも大音量のメロディーが室内に響いた。 浴室のフォンなんて、実家にはない機能だ。 いつ使うのだろうと考えることもあったが、まさか、今使うことになるなんて思わなかった。 とても、便利に感じる。 しかし、初めてのことに、胸がドキドキしている。 それなのに、少し待つが、彼が答える様子はない。 もしかすると、彼の部屋に戻ってしまったのだろうか…… 私は、もう一度だけと、再びそれを押した。 しかし、やはり応えない。 きっと、いないに違いない。 私は思わず「いないのか……」と、呟いた。 小さな呟きは浴室に大きく響いた。 しかしそのとき、彼の声が、届いた。 「なんだ……?」 「と、共哉さん……」 私は彼が応えてくれたことに、ホッとした。 「お部屋にいました?」 なんだか電話で話してるみたいだ。 少し、面白い。 「いや、ずっとリビングにいた」 「え……」 「間違って押したのかと思った。お前、何も喋らなかっただろ」 こちらが呼ばなければならない仕組みなのかもしれない。使い方を知っておくべきだったと、今さら感じる。 「すみません」 「いや、いい。何なんだ?わざわざそこから……」 「あの、お風呂温かいですよ」 「……は?」 彼にも温まって欲しかった。 「もう一度、どうですか?」 しかし、彼は黙ってしまう。 「お風呂に入ってください、共哉さん」 私は肝心なことが抜けているのに気づかない。 まるで、一緒に入るように誘っているというのに……
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