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共哉さんは前髪をわずかに濡らして戻ってきた。
すぐに椅子に座り、手を合わせてくれた。
私は彼が口に入れるとすぐ、「どうですか?」と、尋ねた。
「悪くない」
いつもの彼の様子に笑みがこぼれる。
もう、慣れてしまった。
会話が弾むわけではないが、ゆったりとした休日の朝の始まり……
彼と過ごせる喜びに、心が和やかになる。
食事を終えたあと、私は洗濯機を回そうと試みた。
しかし、しばらく悩んでしまう。
一体どのボタンを押せばいいのだろう……
実は、洗濯機を使ったことがない私だ。
毎朝、宮前さんに甘えていた。
洗濯機なんて、スタートボタンを押すだけだと思っていたが、メニューがいくつかある。
“おまかせ”なんてあるが、とても任せられない気がした。
自分のものだけならまだいいが、彼のものもあるため安易に試せない。
私が巨大な機械の前で困惑していると、「お前どうしたんだ?」と、共哉さんに言われた。
「え、あっ……」
彼に見つかってしまった……
私はひどくたじろぐ。
「洗濯機、もしかして、使ったことないのか?」
バレてしまい、顔が熱くなる。
「……はい」
とても、恥ずかしい。
呆れられた顔を見たくないため、顔をうつむかせた。
すると、共哉さんは私のすぐ横に来て、洗濯機のボタンに指を伸ばした。ボタンの押された音がした。
「俺もそんなに回さないがな……。普通に回すならこれでいい」
なんと、彼に教えられてしまう。
ますます、恥ずかしい……
「あ、はい……」
「干したことは?」
実はそれもなかった。
「ないです。けど、やってみます」
「そうか」
呆れられたくない。
だからせめて、意気込みをみせた。
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