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共哉さんが二人を中へ誘ったことで、二人はリビングへ足を進めた。
私は慌ててお茶を準備しようとキッチンへ駆けこむ。
大人な来客に、緊張する。
私がキッチンにいる間に、共哉さんは山本さんに名刺を渡すのが見えた。
私も、早くしなければと、焦る。
「初めまして、夫の蓮池です」
共哉さんの低い声が私の耳にも届く。
とても嬉しい自己紹介の仕方である。
すると、山本さんも名刺を渡し、スレンダーな体を曲げた。
二人の視線が一瞬絡んで離れたのがわかる。
なぜか、そのとき、わずかに心に痛みが走った。
ちくりとしたイヤな痛み。
そう、それはヤキモチだった。
だって、私なんかより彼女のほうが、共哉さんとお似合いに見える。
淡い水色のシャツに、白のパンツ姿の彼女の装いはとても大人に見えた。
私と同じパンツ姿なのに、まるで違う。
なにより決定的に違うのは化粧をされた顔だ。
山本さんのブルーのアイシャドウで縁取られた瞳や、赤い口紅をのせた唇は、大人な女性を思わせる。
きっと、近くで見たらドキドキするくらい綺麗に違いない。
せめて化粧をすればよかっただろうか……
せめて、もっと大人を意識した服を選べばよかっただろうか……
なんだか、とても恥ずかしい。
私は下唇を噛みしめる。
しかし、ずっとここにはいられない。私も、勇気をだして、その輪に飛び込んだ。
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