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一品目に出てきたものはトマトを練り込んだ赤の豆腐と、上品な切り込みの入ったキュウリとワカメのもずく酢だった。
「いただきます」と、言った二人の声に、やっと沈黙が途切れた気がした。
豆腐を口に入れると、ほんのり甘い味が広がった。
「美味しい……」
「そうか」
なんとなく、共哉さんの声が優しい。
「甘味があって美味しいですね」
「あぁ」
甘い味のせいか、少しだけ心が落ち着く。
「お前はこういう物も作れるのか?」
「これ、ですか?」
「あぁ」
作って欲しいのだろうか。
もしくは、彼は場を繋ごうとしてくれているのだろうか。
「どうでしょう。ただ見よう見まねでお外で食べたお料理を作ることはあります」
だが、私は真剣に答えた。
「それはすごい特技だな」
特技というほどでもない。
「お好きなら……」
彼の結婚した目的に傷ついたけれど、私は妻である。
今まで通りにするべきだろう。
だから、夕食作りも変わらずするべきだろうか。
「挑戦してみます」
私は共哉さんを真っ直ぐに見つめた。
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