事実と好意

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見つめる彼の表情は無表情だが、僅かに驚いたようにも見える。 「あぁ……」 「共哉さんトマト好きですもんね」 彩りと栄養面を考え、サラダにはよくトマトを入れるが、ほぼ毎回初めに食べる彼だ。 ミネストローネを作った時も茶碗蒸し同様にさぐに、食べてしまった彼を、私は勝手にトマト好きだと思っていた。 「そうだ」 やはり、そうか…… ただ、それを認める彼の顔がなんだか子供みたいに見えた。 思わず、私は笑ってしまう。 すると、彼が厳しい目を向けてきた気がして、私は固まった。 「そうやって笑うと……」 彼の次の言葉を待つ。 「いや……」 しかしすぐ、視線を逸らされた。 笑ったことを謝るべきかと気になったが、二品目の料理がやってきてそれをするのは叶わなかった。   出てきたのは茶碗蒸しだった。 「共哉さんの好みをよくご存じなんですね」 「あぁ」 本当に馴染みなのだろう。 ひどいことを言われたのに、私は今夜の料理をよく覚えておこうと、密かに目標を掲げた。
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