キスの理由

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“どうぞ”と、口から出そうになり、私は慌てた。 私は何をやってるのだろう…… 「す、すみません」 自分のしていることに、今さら気がついた私は慌てて、自身のほうへ戻す。 「ん?なんだ?」 「い、いえ……」 恥ずかしい、どうしよう…… 「食べさせてくれるんじゃなかったのか?」 「えっと……」 その通りだ。 しかし、指摘されたことに、私は目を泳がせた。 「ほら、くれよ」 「え……」 共哉さんはなんと、右肘をテーブルに付け顎を乗せた格好になった。そこで軽く口を開ける。 少し行儀が悪い格好、しかし、そこまで意識が回らないのは心臓がドキドキしてるからだ。 「ほら、それ、くれるんじゃなかったのか?」 彼の視線は私の手元にある。 まだ乗せられているケーキを、きっと食べたいのだ。 わざわざ私のために頼んでくれたんだものを、私ばかり食べるのは失礼、かもしれない…… 「は、はい」 「だろ、ほら」 「はい……」 だから、私は覚悟を決めて、それを前に差し出した。 口元まで持っていくと、手が震えるのがわかった。 彼も気がついているはずだ。 「ど、どうぞ」 なんとかそう言った私だが、次の瞬間乗っていたケーキは彼の口へと消えて焦る。 まさか、今日も似たような状況に陥るとは…… 綺麗になったフォークを見て、さらに心臓がバクバクと音を立て始める。 ダメだ、私、恥ずかし過ぎる…… 免疫の無さすぎる故、どうしようもないくらいうるさく騒ぐ心臓に、新鮮な空気を入れようと深く息を吸った。
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