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「共哉さん……」
冷たい視線に、震えそうなくらいだ。
「なんだ」
「い、いえ……」
とても、やってみたいなんて言えない。
ここ最近で一番かもしれないすごみに、私は首を横に振った。
「邪魔してごめんね、ごゆっくり」
晴彦さんは私に一度視線を向けると、キッチンへ行ってしまう。
ずるいと思ってしまうのはこの空気が重いからだ。
「葉月」
「はい」
「もう一度言うぞ、アルバイトは禁止だ」
まるで子供に言い聞かせるような言い方だ。
「わかったか」
「はい」
しかし、私は逆らえず、小さく頭を縦に振った。
すると、共哉さんの目が柔らかく細まる。
彼の穏やかな顔を見られるのなら、諦めよう。
よく考えると、彼にはこれ以上にないくらい、よくしてもらっている。
他にも大人になる方法はあるはずだ。
アルバイトが、すべてではないはずだ。
「いい子だ」
すると、共哉さんは手を伸ばし私の頭を撫でた。
触れられる頭が、熱い……
単純だが、今、少しだけ思う。
子供でも悪くないかも、なんて……
しかしやはり釣り合えるようになりたいのはたしかだ。
大人な彼を好きになってしまった私の心は揺れ動いていた。
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