キスの理由

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「偶然だね、葉月ちゃん」 「えぇ」 イヤな偶然だ。大学の側でも、今日は休みなのに…… 「今日はサークルがあるから、仲間たちと来てるんだ」 「そ、そうなんですか」 「葉月ちゃんは?」 「え?」 「葉月ちゃんは誰と?もしかして一人?」 彼に見つめられて、焦る。 「い、え……」 「友達と?」 私は小さく首を横に振った。 結婚してることは言っていないため、迷った。 「いえ、か、家族と」 出てきた言葉はそれだった。 しかし、間違ってはない。 だって、彼はまぎれもなく家族なのだから。 「へぇ、そっか」 「はい。すみません待たせているので、失礼します」 これ以上、突っ込まれては困ると共哉さんの待つ席へ逃げた。 「お待たせしました共哉さん」 「どうした、慌てて……」 「いえ、取れました……」 共哉さんは私の髪に触れ、「よかった」と、笑った。 私の胸はわずかに震える。 きっとこれで児玉さんとは今日は喋ることはない。 そう思っていたが、思いきり外れた。 「ここにいたんだね、どおりで見えなかったはずだ」 なんと、児玉さんが追いかけてきたのだ。 共哉さんの手が、私から離れた。
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