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私は、食べるスピードが遅い。
彼は早いため、あっという間に食べてしまい焦る。
特に今日は品数が少ない。
それに、足りただろうか……
「あの、おかわりは、要りますか?」
「いや、いいよ。ごちそうさま」
共哉さんは両手を合わせて、ごちそうさまのポーズをとった。
「あっ、はい。温かいお茶いれましょうか?」
「いや、まだいい。ゆっくり食えよ、葉月」
「はい」
私は彼の言葉に甘え、食事を続けるも、落ち着かない。
「共哉さん、珈琲いれましょうか?」
「いいよ、ほんと。食えよ」
だって、一人だけ食べているなんて、申し訳なく紺感じてしまう。
「もう少し、作ればよかったですね」
「じゅうぶんだよ。あの時間で、これだけ作れれば」
優しい言葉をかけてくれる共哉さんに、心にじんわりとしたものが広がり、和らぐようだ。
「ありがとうございます」
「お前は、ほんと……素直だな」
「え……?」
「あの家でよく、お前は真っ直ぐ育ったな」
共哉さんが私の実家のことを話すのは珍しい。
「厳しかったろ、父親」
「え、えぇ、それなりに……」
幼い頃から、父は怖い存在だった。なるべく、怒られないようにしなせればと、気を張りつめていたのだ。
「お前の姉は我慢できず、飛び出したんだろう。お前はえらいよ」
「共哉さん……。姉のこと、ご存知なのですか?」
初めて会ったお見合いの席で、義母も姉のことを知っているようだったから、もしかすると共哉さんも接点があるのかもしれない。
「 あぁ、昔会ったことがあるよ」
「そうなんですか?」
前ほどに姉を思い涙しなくなった私だけど、姉のことはずっと気がかりでいる。
今も、姉の話題になり、胸が苦しい。
「お前と違って活発だったな。お前は前から大人しかったが……」
私はひどく驚いた。
「私とお会いしたことが……?」
「ん、あぁ。随分昔な。子供の頃だ」
そんなの、今、初めて知った。
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