312人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
私は、彼が注いでくれた水を一気に飲んでしまった。
すると、彼は空になったグラスまでも、キッチンへ戻してくれた。
「髪濡れてる、暑いか?」
「はい。見苦しくてすみません」
横着した見苦しい姿を、彼に見せてしまい、恥ずかしい。
「別に見苦しくない。俺もタオルドライだしな」
たしかに、彼はそう。
だけど、それはさすがに言えなかった。
「ほら、貸せ」
「え?」
私は彼にいきなりバスタオルを取られた。
「こうしたら乾くぞ」
何をするのかと思えば、背の高い彼は私の頭をバスタオルで包んだ。それからすぐ、その手をタオルごと、動かしはじめる。
「え、わ……」
私は驚き、変な声をあげる。
彼は少し笑って「しかし、あれだな……」と、呟いた。
あれとはなんだろう……
私は不思議に思い、首を僅かに傾けた。
「子供にしてやってるみたいだな」
子供……
たしかに子供の髪を、親が拭くイメージがこの格好にはある。
別に嫌なことを言われたわけではない。
でも、引っかかる。
私は何も答えることができなかった。
しかし、彼は私が無言でいることに、乾かしてくれることに夢中で気づかない。
最初のコメントを投稿しよう!