想いの確認

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指輪を買いにいくと彼は言った。 「まずは指輪だ、」 間違いはない。 「もし他に買いたい物があるなら、そのあとだ」 結婚指輪に憧れがなかったわけじゃない。 けれども、唐突に話題にされると現実味が湧かない。 「好きなブランドとかあるか?」 ブランドものはよくわからない。 無言で首を横に振ると、共哉さんは少し表情を緩めた。 「着けたいデザインは?」 そんなのものも、ない。同じく首を横に振る。 「欲がないな……」 本当に買いにいくのだろうか、私たちの指輪を指しているのに、どうも戸惑う。 「そうと決まれば……」 彼は何かを考えているような顔をしている。 私は彼をぼんやりと見つめることしかできない。 そのとき、彼の携帯の着信音が鳴った。 彼はポケットからそれを取り出し、「悪い」と、言って私の身体を離した。 「いえ、どうぞ」 電話の米倉さんからのようだ。 それは結構長くかかりそうな様子で、私はキッチンへ足を向けた。 指輪…… 思わず左手を凝視してしまうのは意識してしまったからだ。 彼は本気だろうか。 指輪なんて本物の夫婦みたいだ。 彼はどういう気持ちで言ったのだろうか。 電話をしている彼の後ろ姿に問いかけるけど、わかるはずもない。 なんだか、凝ったものを作るには失敗してしまいそうで、簡単なものを作ることにし、調理を始める。 「葉月、俺は少しまだ仕事するから、夕飯できたら呼んでくれ」 「はい」 彼は部屋にいってしまう。 「お仕事、忙しいのかな……」 昨日遅かった彼だ。今日は早かったが、落ち着いたのだろうか。 私は本当は彼の仕事が立て込んでいて心配で帰ってきてくれたなんて、知るはずもなかった。 「く、首の痕のせいなのかなって思ったんです。だから、早く帰りたくて」 勘違いだと言われるかもしれないと少し思いつつ、話した。 だが彼は呆れる様子はない。代わりに彼をより不機嫌にさせたように感じる。 「誰か知らないやつに声をかけられたか?」 「え、学校で、ですか?」 彼を見つめると、無言で頷かれた。 「い、いえ」 そんなことはなかった。やはり勘違いだと思われたのかもしれない。
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