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「あ、あの私、恥ずかしかっただけなんです、首の痕が。すみません、心配かけてしまって。あの、共哉さんご飯作……」
夕食を作ると、話題を変えたかった。
しかし、彼は私の言葉を遮った。
「明日指輪買いにいくぞ」
全く違う話題をする彼に驚く。
その内容に視線のことや夕食のことは、一気に吹っ飛んでしまった。
夕飯を作り終えた私は、彼の部屋のドアをノックした。
「共哉さん」
開けてもいいだろうか。
私も使うようになったからだろう、そっとドアを開けてしまった。
すると、彼は電話をしていて、私に気づいた彼がこちらに歩み寄ってくる。
邪魔だったかもしれない。
退室するべきか迷ったけれど、それより先に彼に抱き締められた。
電話中なのに……そう思うけど嫌じゃなくそのままでいる。
だがすぐに、彼の電話の相手は誰だろうかと気になりはじめる。
そう思うのも、あまりに近い距離のせいで漏れる声が女性だとわかったから。
モヤモヤした気持ちになるのは彼が好きだからだ。
僅かに痛む胸を抑え、彼を見上げると、同じくこちらを向く共哉さんがいる。
彼は私に話しかけた。
「葉月、お前の姉が明日会いたいと、言ってる。いいか?」
「え……?」
まさか姉だったとは思わなかった。
電話の相手が姉だと知り、妙にホッとする。しかし、会いたいと言われた事実はすぐにやってきた。
「明日午前中がいいそうだ」
「……は、はい」
とりあえず相槌をうったのだが、それを肯定ととった彼は姉に約束を取りつけ始めた。
時間や場所、それらを話す彼を見つめるしかない私は姉と会う事実を少しずつ受け入れていく。
会いたい気持ちはある。
彼が電話を終えたのはそれからすぐで、私の頭を撫でながら顔を近づけてきた。
「葉月、指輪は姉と会ったあとだ」
「……あと?」
「あぁ。俺としては先に、早く買いたかったがお前の姉も仕事をしていて忙しいみたいだからな」
姉は何の仕事をしているのだろう。
私と違って温室育ちだ。想像ができない。
「そうなんですか……」
「あぁ、姉と会ったあと、すぐ行こうな」
指輪を本当に買いたいのだろうか。
相手は、私なのに……
姉のことに指輪のこと、なんだか頭の中が忙しい。
そんな私の左手を取って、彼が指にキスをする。
「早く着けさせたい」
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