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「すみません、お待たせしましたか?」
「いえ、今私たちも来たところですから」
何も言えない私に彼が気を遣ってくれる。
そして密かに、姉が待たせていなかったことを安心した。
「葉月、座ろうか」
「……はい」
結局、姉とは一度も視線を重ねられないまま、彼の横に座った。
姉は目の前に、彼の前には男性がいる。
今日はこの前見た子供はいないようだ。
座って最初に話を始めたのは彼だった。
「お義姉さんにはご挨拶しましたが、初めまして葉月の夫の蓮池です」
「初めまして、弥生の夫の渡部です。今日はわざわざありがとうございます」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
彼は男性と名刺交換をした。
思わず彼が名刺をテーブルに置いたとき、横目で覗いてしまった。
そこには聞いたことのない会社の名前と、渡部さんの名前がある。
学生の私には何の会社なのかよくわからなかった。
「IT関係ですか?」
「えぇ、まぁ。お恥ずかしいですが小さい会社で細々と。蓮池さんは蓮池グループの跡取りなんですよね?雑誌やテレビで存じ上げておりました」
彼を知らない人はいないようだ。
「えぇ、跡取りといってもまだ祖父も父も健在で私が継ぐかもわかりませんが」
そうは言うが、いつかは彼が継ぐのだろう。
そんなことをぼんやり考えていたら、姉が厳しい口調で問いかけてきた。
「蓮池さん、どうして葉月と結婚を?」
それは共哉さんに向けての言葉だ。
「どうしてといいますと?」
「葉月はまだ若いのに、なんで……」
姉を見つめると、怒りを抑えた表情をしている。
「葉月とは縁がありまして、今年の春に彼女の夫となりました。今は葉月は大学に通いながらも、主婦業もしてくれていて私を支えてくれてますよ」
「縁って、何よ……」
姉の質問の答えからは、ずれている気もするが、彼の言葉は私には嬉しいものだった。
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